個人事業主の中で「老後の生活が心配だ」という人は多いのではないでしょうか。個人事業主は退職金がなく行っている事業が存続していけるかどうかも分かりません。そのため将来の生活費に不安を覚えるとしても自然なことです。そんな時に検討したいのが「小規模企業共済」です。

この記事では小規模企業共済の仕組みや加入するメリット・デメリットについてご紹介したいと思います。

1.小規模企業共済はどんな共済?

小規模企業共済はどんな共済?

小規模企業共済とは、日本国の機関である「中小機構」が運営している制度で、簡単に言えば小規模な事業を経営している経営者や役員、個人事業主などのための「積み立てによる退職金制度」です。冒頭で述べたように個人事業主には退職金がありません。そのため老後の生活を心配する事業主は少なくないですが、この制度を使えば退職金を受け取ることができます。

2018年3月時点での加入者は全国で約138万人もいます。2013年から右肩上がりに加入者が増えていて、資産運用残高も約9兆4,125億円とかなりの額になります。共済金受給額の平均は1,087万円となっていて、将来の保険としては魅力的な金額です。毎月掛金を支払って将来まとまったお金を受け取ることができるので不安が軽減されます。

小規模企業共済の種類

共済に契約している人が受け取れる金額は後述しますが、個人事業主の共済区分には以下のような4つの種類があります。

共済金等の種類 請求事由
共済金A 個人事業を廃業した場合
共済契約者の方が死亡した場合
共済金B 老齢給付(65歳以上で180か月以上掛金を払い込んだ方)
準共済金 個人事業を法人成りした結果、加入資格がなくなったため、解約をした場合
解約手当金 任意解約
機構解約(掛金を12か月以上滞納した場合)
個人事業を法人成りした結果、加入資格はなくならなかったが、解約をした場合

(中小機構データ参照)

この区分に基づいて共済金額が計算されます。

掛け金はどれくらい?

掛け金は1,000円から7万円までの範囲で自由に設定することができます(500円単位)。毎月個人の預金口座から振替で支払いますが、都合に応じて半年払いや年払いからも選択できます。

事業が軌道にのって余裕が出てきたら掛け金を増額できますし、逆に余裕がなかったら減額することもできます。また前納した場合は一定割合の前納減額金を受け取ることができます。

共済金の額はどれくらい?

共済金は掛け金の納付月数や共済事由によって受け取れる基本共済金が規定されています。掛け金納付月数は掛け金月額500円を1口とした掛け金区分で数えます。例えば掛け金が10,000円なら500円×20=10,000円なので20口となります。これに1口あたりの共済金額をかけたものが基本共済金額になります。共済金Aにおける具体例を見てみましょう。

掛金月額 掛金納付月数 掛金納付
合計額
掛金月額
500円(1口)
あたりの額
基本共済金額
10,000円
(500円×20口)
180か月 1,800,000円 100,550円 2,011,000円
(ア)×20口

(中小機構データ参照)

途中で増額したらその分も別途計算されて上乗せされていきます。

付加共済金の額の算定

上記の基本共済金とは別に「付加共済金」もあります。これは基本共済金に上乗せされるものですが(解約手当金は対象外)、「基準月ごとの付加共済金額」と「脱退端数月分の付加共済金額」との合計金額が相当します。基準月とは掛金納付月数が「36+12×整数」となる月です。

「基準月ごとの付加共済金額」は以下のように算定します。
・「基準月ごとの付加共済金額」=「その基準月における仮定共済金額(基準月で脱退すると仮定した場合の基本共済金額)」×「その基準月の属する年度の支給率」

「脱退端数月分の付加共済金額」は以下のように算定します。
・「脱退端数月分の付加共済金額」=「脱退時における基本共済金額」×「脱退年度の支給率」×脱退端数月/12月

少しややこしい計算になりますが、公式HPには計算例がのせられているので参考にしましょう。簡単に言えば基本共済金にプラスされるおまけ部分のようなものです。

2.小規模企業共済のメリット・デメリットを教えて

小規模企業共済のメリット・デメリットを教えて

小規模共済に個人事業主が加入する場合のメリットとデメリットをそれぞれご紹介します。両方を比較検討したうえで加入するかどうか、そして加入する場合はどれくらいの掛金をかけるかを決定しましょう。

小規模企業共済のメリット

まずはメリットからです。

・退職金がもらえる
すでに説明したように掛金に応じた一定金額の共済金がもらえます。いわば退職金のように将来の生活の一部を保証されます。

・掛け金は所得控除の対象になる
小規模企業共済に対して掛けているお金は全額所得控除の対象として認められます。つまり掛金は節税対策になるということです。具体的な節税額については以下のようになります。

課税される
所得金額
加入前の税額 加入後の節税額
所得税 住民税 掛金月額
1万円
掛金月額
3万円
掛金月額
5万円
掛金月額
7万円
200万円 104,600円 205,000円 20,700円 56,900円 93,200円 129,400円
400万円 380,300円 405,000円 36,500円 109,500円 182,500円 241,300円
600万円 788,700円 605,000円 36,500円 109,500円 182,500円 255,600円
800万円 1,229,200円 805,000円 40,100円 120,500円 200,900円 281,200円
1,000万円 1,801,000円 1,005,000円 52,400円 157,300円 262,200円 367,000円

(中小機構データ参照)

・個人事業主は解約時に退職所得として共済金を受け取れる
小規模企業共済は解約時に税金を支払うことになります。しかし個人事業主の場合は、共済金は退職所得としての扱いになります。事業所得と比較した場合の退職所得の税負担は大幅に軽くなります。なおこれは一括で受け取る場合で、年金のように分割で受け取る場合は「雑所得」となりますが、いずれにしても給与所得よりは税制上優遇されます。

・貸付制度もある
実は小規模企業共済には貸付制度も存在します。資金繰りに困ったら事業資金を借り入れできるので万が一の保険的存在になります。貸付制度には以下のようにいくつかの種類があります。

  • 一般貸付制度
  • 緊急経営安定貸付け
  • 傷病災害時貸付け
  • 福祉対応貸付け
  • 創業転業時・新規事業展開等貸付け
  • 事業承継貸付け
  • 廃業準備貸付け

それぞれの詳細については公式HPを参照してください。

小規模企業共済のデメリット

続いて、小規模企業共済のデメリットを見ていきましょう。

・元本割れで損する可能性がある
中小機構のHPには以下のような文面があります。

「掛金納付月数が、240か月(20年)未満で任意解約をした場合は、掛金合計額を下回ります」

つまり、掛金納付月数が短い場合は節税効果よりもむしろ元本割れが発生する可能性があるということです。ただ、元本割れしたとしても掛金分の所得税が安くなっているので必ずしも損しているとは限りません。また、これは任意解約の場合であり、廃業や事業譲渡、契約者の死亡などの場合は元本割れしません。

・12か月未満の解約は掛け捨てになる
12か月未満の契約では共済金は受け取れないので短期契約には向いていません。

小規模企業共済の連絡先

共済に関する不明点や疑問がある場合は以下の連絡先にアクセスしてみてください。

・コールセンター:050-5541-7171
受付時間:平日午前9時~午後6時

公式HPでは「チャットボットサービス」で加入や掛け金についての相談がリアルタイムでできます。

3 .まとめ

小規模企業共済は個人事業主のように小規模な事業を営んでいる経営者にとって大きな味方になります。節税になったり退職金や年金のように共済金を受け取れたりと、メリットがいろいろです。デメリットもありますが、それぞれをよく比較検討してみましょう。国の制度ということで安心感があるので、できるだけ早く加入することをおすすめします。